http://www.real.com/resources/wp-content/uploads/2013/03/video-on-demand.jpg
http://wowow-i.jp/v20110531/img_news/primary/default/1183.jpg
日本でも成長市場であり、色んな事業者が色んなことをやっているカオスなこの分野に、今年春頃、米国ビデオ・オン・デマンド最大手のネットフリックスが遂に上陸してくるというニュースが流れ、業界内でも話題となりました。
https://www.netflix.com/jp/
サービス開始は9月2日、間もなくとなります。いつもは仕事柄、映画宣伝の話が多いのですが、実はその辺りとも無関係ではなかったり。今回は日本におけるビデオ・オン・デマンドとネットフリックス上陸について、備忘録も兼ねてまとめ書きしたいと思います。
●もくじ
①日本のビデオ・オン・デマンド
②業界最強ネットフリックスって?
③検索不要?高精度のレコメンド
④オリジナルコンテンツ制作の意欲
⑤日本の映像制作が変わる?
まず、ネットフリックスが参入してくる、現在の日本のビデオ・オン・デマンド市場はそもそもどんな状況か。
①日本のビデオ・オン・デマンド
http://bmbb.jp/2014/04/vod/
それが次第にスマホやタブレットが普及し、通信テクノロジーも発達すると、僕たちのインターネットによる動画接触時間が増え、ビデオ・オン・デマンドもサービスを拡充していきます。
扱われるコンテンツも邦・洋メジャー映画やドラマがどんどん増えてきましたね。
hulu上陸以降は、定額制サービスも一般利用が進み、“誰でも使うサービス”というムードが醸成されてきています。
しかし、認知度が高まる一方で、この手のサービスが一度も利用したことがないという人も多く、利用層と非利用層の溝が深い、これから感もたっぷりな業界と言えます。
http://hikaku-site.up.n.seesaa.net/hikaku-site/image/E59BB31.png?d=a613564
僕たちがビデオ・オン・デマンドと呼ばれるサービスの利用で、課金するパターンは大きく分けて2つ、“都度課金”と定額料金で見放題の“サブスクリプション課金”です。
図で見ると、ItuneStoreが都度課金特化、Huluは定額特化、TSUTAYAとU-NEXTがその間を取るようなイメージですね。また、一覧図の中にはありませんが、国内ではd-tv(旧dビデオ)がhuluと並び人気です。以下、簡単に比較です。
●Hulu
月額料金 | 933円(税抜き) | |
---|---|---|
動画本数 | 約1万本以上 | |
ジャンル | 洋画/邦画/アジア映画/海外ドラマ/国内ドラマ/アジアドラマ/アニメ/キッズ/ドキュメンタリー | |
無料期間 | 2週間の無料トライアル期間あり |
●d-TV
月額料金 | 500円(税抜き) | |
---|---|---|
動画本数 | 約12万本以上 | |
ジャンル | 洋画/邦画/アジア映画/海外ドラマ/国内ドラマ/アジアドラマ/アニメ/音楽/BeeTV | |
無料期間 | 31日間の無料トライアル期間あり |
これらのサービスが群雄割拠する動画配信市場は、この数年でみるみる拡大しています。(下記図のオレンジ部分が該当)
※引用)ミルビィブログ 有料課金動画配信を知る、始めてみる Part5〜市場編2014年版〜
少し古いデータですが、デジタルコンテンツ協会の発表によると、2013年の動画配信市場は約1230億円で、前年比121%。DVD&BDのセルの割合が伸び悩む中で、順調にパイを増やしています。
2018年迄には、1981億円まで成長するとされており、セル&レンタルと同規模の市場となることが予想され、パッケージ低迷の中、ビデオ・オン・デマンドには、映像市場という大きな文脈で、今後の屋台骨としての期待が寄せられています。
余談ですが、映画(興行)の市場規模はこの数年変わらず2000億円程度なので、セル2400億、レンタル2184億、動画配信1230億、主要どころで年間8000億とかが、お金を払って映像を見る市場のざっくりな規模感となります。
②業界最強ネットフリックスって?
http://antyweb.pl/netflix-wzial-sie-za-pelnometrazowe-filmy-i-ma-szanse-podbic-kina/
http://www.panoramaaudiovisual.com/wp-content/uploads/2014/12/Reed-Hastings.jpg
創業者:ヘイスティング氏
実は、既に日本でサービスを開始しているhuluやドコモのdビデオは、ネットフリックスを手本にサービスを作っています。そんな本家が、日本に上陸しようとしているわけです。
http://marketing.crevo.jp/column/netflix-data-and-history/
ネットフリックスが配信する作品は、ハリウッド作品の配信はもちろん、独自制作のドキュメントやドラマ、映画といった映像作品も配信しているのが特徴。
国内Huluが、ドラマ中心に約1万作品を提供し月額933円(税抜)。
dTVは、約12万作品を提供しながら月額500円。
そうしたなか、ネットフリックスは映画が5万作品以上、ドラマ他で1,500作品以上というポテンシャル。そして8月24日、遂に日本での料金体系を発表しました。
参考:http://mediaborder.publishers.fm/article/9179/
他サービスと比較してみると、こんな感じです。
参考:http://mediaborder.publishers.fm/article/9179/
とはいえ、金額だけでは今イチ、サービスの違いが見えてこない、という方も多いかと。以下は、ネットフリックスが注目される、2つの大きな価値について。
③検索不要?高精度のレコメンド機能
ネットフリックスの価値は、ある2点に集約されます。そのうちの一つが高精度のレコメンドに代表される、テクノロジー。派手さはありませんが、まさしくネットフリックスがプロダクト・イノベーティブであるポイント。
本当かどうか疑いたくなる数字ですが、本国で4,000万を超えるユーザーの全視聴において、実に75%がオススメ機能から動画を観ているとのこと。驚くべき数字です。
例えば僕が「◎◎観たいな〜。検索、検索・・・」という前に「あれ、オススメ欄にあるじゃん!」さらには、「あ、けどこっちのが観たかったんだ!視聴、視聴…」となるわけです。
ネットフリックスは、膨大な数の作品からメタデータを作成、それに沿綿密に分類。その上で、ユーザーがどんな動きをしたか、どの作品を視聴したか、しなかったかを詳細に分析。「このユーザーにはこの作品がオススメ!」を導き出すアルゴリズムの開発に成功しています。
日本のネットフリックスも、立ち上がりの時点で社員の50%がエンジニアで構成されているそうで、技術面に強い自信を持っているそうです。レコメンドの精度もどれほどのものなのか、早く僕もサービス利用し、確かめてみたいところ。
④オリジナルコンテンツ制作への意欲とクオリティ
ネットフリックスのもう一つの大きな価値は、オリジナルコンテンツの制作です。ドラマ『ハウス・オブ・カード』は、イギリス原作のTVドラマ『野望の階段』のリメイク。この主人公が語りかけてくるちょっとメタなスタイルも、原作ドラマからの踏襲だそう。
物語は、ホワイトハウス入りの夢を潰された政治家フランシスの壮絶な報復を描くもので、巧妙な駆け引きや男女の欲望が複雑に絡み合うドロドロのストーリーが人気です。
監督は、デヴィッド・フィンチャー(『セブン』『ファイトクラブ』『ソーシャルネットワーク』『ゴーン・ガール』)。主演はケビン・スペイシー(『セブン』『アメリカン・ビューティー』)と豪華な組み合わせ。
僕もフィンチャー作品は大好きで、映画フォロワー・フィンチャーフォロワーはニヤリとする場面が節々にあり、作品自体とても面白いです。この『ハウス・オブ・カード』、ネットフリックスが約100億円(2シーズン分)という破格のスケールで制作したというのですから、驚きです。
(c) Netflix. All Rights Reserved.
(c) Netflix. All Rights Reserved.
(c) Netflix. All Rights Reserved.
さらに『マトリックス』『ジュピター』のウォシャウスキー姉弟が監督を務める『センス 8』は既に本国でネットフリックス制作のドラマとして人気を博し、『アベンジャーズ』や『アイアンマン』のマーベル原作『Daredevil (原題)』ドラマ版制作も気になるところ。
この他、ネットフリックスはIMAX映画の製作に着手しており、今後ネットフリックス上と一部のIMAXシアターだけで封切ると発表しています。
ネットフリックスは「総制作費数百億とかしちゃうような超ビッグバジェットムービーを、名監督つけて、すげークオリティでつくるぜ!(つくれるぜ!)」と言っており、事実そのスキームが出来上がっています。
中でも『ハウス・オブ・カード』はテレビ界のアカデミー賞とも言われるエミー賞3部門受賞、ゴールデングローブ賞を受賞。目に見える形での“大成功”を収めました。
そしてこの成功には、ネットフリックス第一の価値であるテクノロジーをバックボーンとした“データドリブン”が大きく関係しています。
http://blogs.itmedia.co.jp/serial/2014/06/5netflix1---d0fa.html
ハリウッドのドラマ作りを根本から変えるとまで言われる『ハウス・オブ・カード』の成功
・いつ(日付/曜日/時間)
・どこで(郵便番号)どんなコンテンツが見られているのか
・どのデバイス(TV/PC/スマホ/タブレット)で
・どんな人(年齢/性別)が
・どんなコンテンツにアクセスしているのか
・停止、巻き戻し、早送りポイント
・どこで止めて、どこで離脱するのか
・ビデオ検索(1日に300万回)、ビデオ選択の行動、ビデオ評価などの記録
・動画の中のスクリーンショットでユーザーが好む/嫌う色、シーン、ボリュームなど
ネットフリックスが活用できるデータとして、上記のようなものがあるそうです。そして、オリジナルコンテンツの制作を検討していたネットフリックスは、データの分析によって、以下のポイントの見える化に成功しました。
http://matome.naver.jp/odai/2141889544479963501
デビッド・フィンチャー監督
●ユーザーの嗜好分析から→ユーザーの多くが、デヴィット・フィンチャー監督の『ソーシャルネットワーク』を最初から最後まで見ていた。
→ 原作版「ハウス・オブ・カード」がよく見られていたこと。原作版を見ていたユーザーが、デヴィッド・フィンチャー監督作品、もしくはケヴィン・スペイシー出演作品をよく見ていた。
→さらに、ユーザーの傾向に合わせて予告を10種類近く制作。
→デヴィッド・フィンチャー監督作品をよく見ている人には、フィンチャー感あふれる予告映像を配信。
→ケビン・スペイシー出演作品をよく見ている人には、彼を中心にした映像を配信。
→女性が登場人物の映画やドラマをよく見ている人には、出演女優にフィーチャーした映像を配信。
(c) Netflix. All Rights Reserved.
●映像の離脱傾向から
→通常アメリカのドラマは第1話を制作し、その反響を見て制作の継続を判断するところ、2シーズン分の制作(100億円)を発注。1シーズン全13話を一気にリリースすることで、ユーザーを1週間待たせるのではなく、続けての視聴を促進を図りました。
参考:データドリブンで制作された大ヒットドラマ「House of Cards」、何がデータドリブンなのか調べてみた/Be Magnetic!
上記の通り、『ハウス・オブ・カード』は企画/製作/プロモーション/リテンション(顧客維持)と、とってもグロースハック的なアプローチで作られた商品といえます。(※これはトラディショナルなテレビがもっとも苦手とするところ)
言うは易しですが、実際にこのデータの土台があったとして、100億円を先行投資するというネットフリックス、その情熱たるや計り知れません。
そんな彼らのオリジナルコンテンツ制作の意欲はとどまる事を知らず、既にアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが発表していますが、任天堂と組んで人気ゲーム「ゼルダの伝説」実写版を制作するそうで、制作費100億円(?)のゼルダ、今から期待大です。
⑤ネットフリックスで日本の映像制作が変わる?
インターナショナルでは、さらなる名匠・名スタジオと手を組み、ラインナップを充実させつつあるネットフリックス。もうお分かりの通り、彼らはものづくりのモチベーションが非常に高く、確かなテクノロジーがあり、ハリウッド級のお金があります。
そのネットフリックスの日本上陸で期待するのは、やはり日本オリジナル/ローカルコンテンツの制作です。ここがめちゃくちゃ気になります。
日本の映像市場は、邦>洋ニーズ、とてもローカル愛が強いマーケット。ネットフリックスも日本でのサービスを開始させる上で、まず国内需要対策として、フジテレビと共同で制作される、『テラスハウス』新シーズン、ランジェリー業界の裏側を描く桐谷美玲主演のドラマ『アンダーウェア』など、日本オリジナルのコンテンツ制作を発表しています。
一方で僕が気になるのは、対海外向けの日本コンテンツ制作。
ハリウッド映画のようなビッグバジェットを持てない日本が、ネットフリックスと映画制作・ドラマ・アニメ制作で上手く融合できれば、今後の日本の映像制作は、これまで進むことができなかったステージに到達できるかもしれません。
http://livedoor.blogimg.jp/scandalsoku/imgs/8/0/80ae51cf.jpg
僕と同じよう邦画『進撃の巨人』で最高に残酷でシュールな4DX劇場体験するような人も、もう出なく済むかもしれないのです(※あくまで個人の感想)。
予算組・製作座組…その映画を“本当に作れるチーム”が、これまでに無かった最適な形で編成される、ネットフリックスはそんな国内の映画づくりの、きっかけとなる可能性があります。
実際に、今後の日本でのオリジナルコンテンツ制作を、ネットフリックス本体がどのように考えているのか。以下ガジェット通信の、日本法人社長ピーターズ氏へのインタビュー記事を引用させて頂きます。
――グローバルに展開しているサービスにおいて、日本市場はどのような役割を担っているのでしょうか。
ピーターズ氏:ユーザーの獲得はもちろん、クリエーター側に期待することは大きいです。日本には(映像コンテンツの原作となりうる)素晴らしいストーリーがたくさん存在します。
しかし、これまでは何らかの理由でストリーミングできるような作品としては作られてこなかった、あるいは海外で観ることができなかったものが多くあります。日本のクリエーターと協力して、世界に日本のコンテンツを届けていく役割は大きいと感じています。
――優れた原作がある一方で、映像化する技術は米国の方が上だという見方もありますよね。
ピーターズ氏:原作のアイデアが豊富にあるというのは非常にクリエイティブなことです。満足のいく映像化を実現できる技術を持ったクリエーターが足りていないのであれば、10年、20年という長いスパンで成長させてくことも必要でしょう。
世界のクリエーターたちを日本のクリエーターたちと交流させることでお互いに学び合うことがあるなら、我々がそのキッカケを作ることもできるかもしれません。
引用:http://getnews.jp/archives/1077573
勿論、立ち上がってすぐにことではありません。時間をかけるという前提で、ネットフリックスというインフラで、需要と供給の整合が取れれば、日本のコンテンツが最高のクオリティで海外に輸出されていくチャンスがあります。全世界に6000万人もの視聴者がいるプラットフォームで、日本発のコンテンツをアピールすることができるわけです。
若いクリエイターがコンテンツ制作の分野で、日本からアメリカン・ドリームを体験することも、決して無い話ではありません。
とはいえ、映画もアニメも放送局の出資としがらみが大きい日本。日本の放送局にとって、ネットフリックスが日本国内で支持を得て行く事は、自分達の未来の市場を侵される〜ということにもつながり、交通整理に時間はかかると思われます。
まずはHulu的な根付き方になるかとは思いますが、日本というマーケットにどうフィットしていくのか、9月2日のサービス開始が楽しみです。
※8月24日(月)料金発表を受けて更新
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