2016年5月28日土曜日

興収50億突破、『ズートピア』の確変が止まらない。



『アナと雪の女王』『ベイマックス』のディズニー最新作、人間のように暮らす動物たちの楽園を舞台にしたファンタジー・アドベンチャー『ズートピア』が、公開6週目を迎えるこの土日に興行収入50億円を突破する。


●GWコナンに出遅れたスタート
振り返れば、『ズートピア』は4/23の公開1週目も、翌2週目も『名探偵コナン/純黒の悪夢』(4/19公開)に大きく引き離され2位のスタートだった。ズートピアの成績が悪かったわけではない。今年のコナンの成績が異常だった。


ズートピアは初週で4.5億、2週目で5億と素晴らしいスタートを見せたが、コナンは初週で12億、2週目で6.8億と、近年希に見る圧倒的な興行で発進した。

毎年GWで好成績を上げ、年間映画ランキングTOP10も常連のコナンは、【シリーズ20作目】【黒ずくめの組織との対決】【コナン世代のパパ・ママ化】と、ヒットの要因も重なり、今年集大成的な盛り上がりを見せた。

その後も成績を維持し続け、公開7週目を迎えるこの土日で、興行収入60億に達しようかという成績だ。

一方、そのコナンの大ヒットを横目に、好成績ながらやや日陰気味にスタートした『ズートピア』だったが、3週目で初めて1位を獲得。 この辺りから、世の中のズートピアを見る目が変わりはじめた。


公開3週目以降も、動員・興収が落ちる気配がなく、むしろ4週目<5週目と前週越え続け、公開1週目以上に「今」の方が稼ぐという【確変状態】に、ズートピアが突入したからだ。


●確変突入のズートピア


〜ズートピア興業成績〜
1週目(土日)4億4580万4900円
2週目(土日)5億0969万9700円
3週目(土日)3億8700万円
4週目(土日)4億5893万800円
5週目(土日)5億407万3100円
6週目(土日)????????

通常、映画興行は公開初週末(土日)を観客動員・興行収入のピークとして、下降を辿る。翌週以降、それ以上の望みは無い。後はいかにホールドを良く保てるかが勝負となる。

しかし映画業界にはごく希に、『落ちない興行』という現象が起こる。そしてディズニー作品には、しばしばこの魔法がかかる。日本映画史歴代3位となった『アナと雪の女王』(最終255億)、15年映画ランキング2位となった『ベイマックス』(最終92億)がそうだった。




〜参考:アナ雪の週別の興業成績〜
1週目(金土日)9億8000万円
2週目(土日)8億7226万9400円
3週目(土日)8億8100万円
4週目(土日)8億5091万1950円
5週目(土日)8億4025万8550円
6週目(土日)8億2678万1000円

〜参考:ベイマックス週別の興業成績〜
1週目(土日)6億0041万0500円
2週目(土日)5億1497万0900円
3週目(土日)6億6541万4100
4週目(土日)5億4610万円
5週目(土日)4億2625万0100円
6週目(土日)3億5010万円


1週目から大ヒットし続けたアナ雪に比べて『ズートピア』は、1-2週目を『妖怪ウォッチ』に譲りながら3週目で1位を獲得した『ベイマックス』が見せた落ちない興行パターンに類似しているが、3週以降の動員・興行の『勢い』という点でズートピアはベイマックスを上回っている。

観客の足並みが落ちず、むしろ拡大していくこのようなパターンは、作品力とそれに紐づく鑑賞者のポジティブなクチコミをベースに、公開後のTVCM等追い宣伝がドライブし、初めて形成される。

若い10-20代からファミリーまで、満遍なく劇場へ足を運び、口コミと追宣伝により、やがてリピーターが出現し始める。望んで形となるものではないが、ディズニーがこれまで成功を収めてきた、理想とするヒットの軌道である。



うさぎの主人公ジュディと、キツネの相棒ニックのバディムービーとしての描き込み・愛くるしさ。行方不明事件の解決をベースとしたサスペンス脚本とコメディのバランス。人種問題や差別・偏見のメタファーとして動物達を描いた社会的テーマ、映画『ズートピア』は、一個のエンタテイメントとして驚くべきレベルで完成されている。

『塔の上のラプンツェル』のパイロン・ハワード、『シュガー・ラッシュ』のリッチ・ムーワの共同監督作品として、ディズニー社を代表する2人のクリエイターの持ち味がかけ算となった、素晴らしい傑作だ。

現在、コナンを猛スピードで追い上げ、そして公開6週目のこの土日にいよいよ50億を突破、その背中に張り付く。『確変状態』に入ったディズニー映画は、ここから先が強い。



※2016/5/31(火)更新
5/28(土)-29(日)の週末興業で動員32万4549人興収4億3867万1300円を記録。公開3週目以降、4週連続累計で1位、累計も動員421万人興収53億円突破と、未だ衰えを見せる気配はない。




2016年2月14日日曜日

【15年映画ランキングと、16年洋画の興行的展望】

早いもので、今年ももう2月半ば。15年末-16年始とバタバタで、全然書きたいブログを書く事ができず、ようやく落ち着いてきたので、備忘録の意味も込めて。ちょっと遅めにはなりますが、昨年1年間の映画興行を振り返ります。

皆さんは、2015年は何本の映画を、劇場でご覧になりましたか?

一昨年は『アナと雪の女王』が興行収入255億という、日本史上歴代3位の空前の大ヒットとなり、業界に地殻変動を起こしました。記憶にも記録にも残る年から1年、2015年の映画興行はどうだったかというと…

前年を超える、大豊作の映画イヤーとなりました。

2015年興行収入ランキングベスト30

順位 興収(億) タイトル 出演/監督 公開日
95.3 ジュラシック・ワールド クリス・プラットブライス・ダラス・ハワード(監督)コリン・トレヴォロウ 2015/08/05
91.8 ベイマックス (声)スコット・アツィット  (吹替)川島得愛菅野美穂, (監督)ドン・ホールクリス・ウィリアムズ 2014/12/20
78.0 映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン! (声)戸松遥 , 関智一 , 小桜エツコ(監督)高橋滋春ウシロシンジ 2014/12/20
58.5 バケモノの子 (声)役所広司宮崎あおい,染谷翔太(監督)細田守 2015/07/11
57.3 シンデレラ ケイト・ブランシェット , リリー・ジェームズ(監督)ケネス・ブラナー 2015/04/25
52.1 ミニオンズ (声)サンドラ・ブロック , (吹替)天海祐希 , (ナレ)真田広之 , (監督)ピエール・コフィン , カイル・バルダ 2015/07/31
51.4 ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション トム・クルーズ , ジェレミー・レナー(監督)クリストファー・マッカリー 2015/08/07
46.7 HERO 木村拓哉 , 北川景子 , 松たか子(監督)鈴木雅之 2015/07/18
44.8 名探偵コナン 業火の向日葵 (声)高山みなみ , 山崎和佳奈 , 榮倉奈々(監督)静野孔文 2015/04/18
10 40.4 インサイド・ヘッド (声)エイミー・ポーラー , (吹替)竹内結子 , 大竹しのぶ, (監督)ピート・ドクター 2015/07/18
11 39.3 映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記 (声)水田わさび , 大原めぐみ , 田中裕二(監督)大杉宜弘 2015/03/07
12 37.4 ドラゴンボールZ 復活の『F』 (声)野沢雅子 , 中尾隆聖 , 山寺宏一(監督)山室直儀 2015/04/18
13 35.4 ワイルド・スピード SKY MISSION ヴィン・ディーゼルポール・ウォーカー(監督)ジェームズ・ワン 2015/04/17
14 32.5 進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 三浦春馬 , 長谷川博己 , 水原希子(監督)樋口真嗣 2015/08/01
15 32.1 アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン ロバート・ダウニー・Jr , クリス・ヘムズワース(監督)ジョス・ウェドン 2015/07/04
16 28.4 映画 ビリギャル 有村架純 , 伊藤淳史 , 野村周平(監督)土井裕泰 2015/05/01
16 28.4 ラブライブ! The School Idol Movie (声)新田恵海 , 南條愛乃 , 内田彩(監督)京極尚彦 2015/06/13
18 27.7 映画 暗殺教室 山田涼介 , 菅田将暉 , 椎名桔平(監督)羽住英一郎 2015/03/21
19 27.4 ターミネーター:新起動/ジェニシス アーノルド・シュワルツェネッガー , ジェイソン・クラーク , (監督)アラン・テイラ 2015/07/10
20 26.2 BORUTO-NARUTO THE MOVIE- (声)三瓶由布子 , 菊池こころ , 竹内順子(監督)山下宏幸 2015/08/07
21 26.1 ポケモン・ザ・ムービーXY 光輪(リング)の超魔神フーパ (声)松本梨香 , 大谷育江 , 藤原竜也(監督)湯山邦彦 2015/07/18
22 25.1 テッド2 マーク・ウォールバーグ , アマンダ・セイフライド(監督)(声)セス・マクファーレン 2015/08/28
23 24.3 ヒロイン失格 桐谷美玲 , 山崎賢人 , 坂口健太郎(監督)英勉 2015/09/19
24 23.8 イントゥ・ザ・ウッズ メリル・ストリープ , ジョニー・デップ(監督)ロブ・マーシャル 2015/03/14
25 23.6 アンフェア the end 篠原涼子永山絢斗 , 阿部サダヲ(監督)佐藤嗣麻子 2015/09/05
26 23.2 ストロボ・エッジ 福士蒼汰 , 有村架純 , 山田裕貴(監督)廣木隆一 2015/03/14
27 22.9 映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語~サボテン大襲撃~ (声)矢島晶子 , ならはしみき , 指原莉乃(監督)橋本昌和 2015/04/18
28 22.5 アメリカン・スナイパー ブラッドリー・クーパー , シエナ・ミラー(監督)クリント・イーストウッド 2015/02/21
29 20.2 寄生獣 染谷将太 , 深津絵里 , 阿部サダヲ(監督)山崎貴 2014/11/29
30 20.0 THE LAST-NARUTO THE MOVIE- (声)竹内順子, 中村千絵, 森久保祥太郎(監督)小林常夫 2014/12/06
参照:http://entamedata.web.fc2.com/movie/movie_j2015.html

アナ雪のような歴史的なヒットがあったわけではありませんが、『ジュラシック・ワールド』と『ベイマックス』の90億超の大ヒットが2本に、50億超のヒットが6本、30億以上のヒットが8本。

ランキング30位までが全て20億以上の成績を挙げているように、平均して中〜大当たりをしています。

〈95億円越えの大ヒットとなり、夏の大作争いを制した『ジュラシック・ワールド』〉


〈日本でのローカライズ宣伝に成功した『ベイマックス』〉

そして、何より個人的に嬉しかったのが、洋画勢の勢いです。TOP10の内6作品が洋画という、近年希に見る洋画イヤーとなりました。

日本の映画マーケットは(邦>洋)、そしてフランチャイズアニメを中心にヒットする傾向になって久しく、20億もいけば洋画実写は大ヒットというのが今の市況。




作年末の『007/スペクター』も28-30億級の大ヒット、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も110〜115億の大ヒット着地が予想されることから、本当に作年は洋画当たり年。素晴らしい作品と興行的成功に恵まれた1年となりました。

映連の発表では、2015年の年間総興行収入は2171億円で前年比105%延べ入場者数は1億6663万人で、前年比103.4%増と、興行・動員ともに上向きとなりました。

ただ、アナ雪のような1作品を2000万人が映画館で観るというイレギュラーな作品が登場しなかった昨年は、述べ来場者数が増えた=相対的に1人の劇場鑑賞回数が増えた、ということになります。

つまり、映画人口の広がりというより、映画好きが何度も映画館へ足を運んだ〜という、映画ファンの〈深まりの1年〉であったことが伺えます。

映画好きを中心に3Dや4Dなど、通常より単価の高いリッチな鑑賞需要が高まったのも、市場の上向きに貢献したと言えるでしょう。


●16年洋画の興行的展望


15年の国内興行を牽引した洋画勢、国内のシェアを見た時に強いのはやはりディズニー。昨年も30位圏内で5作品をきっちり当て、目玉の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も100億越えの大ヒットと、抱えるコンテンツの強さを見せています。

今年の洋画ラインナップを見てみると、ディズニーは16年も強力かつ盤石な布陣を敷いています。


(C) 2016 Disney / Pixar. All Rights Reserved.

(C) 2016 Disney / Pixar. All Rights Reserved.

ディズニー/ピクサースタジオからは、『アーロと少年(3/12)』『ファインディング・ドリー(7/16)』と、ピクサーから初めて年間2タイトルが公開されます。

(C) 2016 Disney. All Rights Reserved.


また、「ラプンツェル」「シュガーラッシュ」「アナ雪」「ベイマックス」と、近年はピに比肩する程クオリティを上げているディズニーアニメーションスタジオから、ハイテク文明社会の動物達を描く『ズートピア(4/30)』

(C) 2016 Marvel.

『アベンジャーズ』のマーベルスタジオからは、アイアンマンVSキャプテン・アメリカを筆頭としたヒーロー同士の内戦を描いた『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(4/29)』が公開。


(C) 2016 Disney. All Rights Reserved.

(C) 2016 Disney. All Rights Reserved.

ディズニー実写からは、前作118億の『アリス・イン・ワンダーランド』の続編『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅(7月1日)』『ジャングル・ブック(8月予定)』


(C) 2016 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

年末には『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフで、エピソード3と4のブリッジの話となる『ローグ・ワン(原題:公開日未定)』が控えます。今作には、ダース・ベイダーの登場も噂されており、年末に向けてまた大きなバズになることでしょう。

今年も洋画がディズニー中心の興行が予想される一方で、昨年あまりスポットライトの当たらなかった20世紀フォックス。

(C) 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

2月のマッド・デイモン主演「オデッセイ」で、初日3日間6億越え/最終25-30億到達の勢いと、幸先の良いスタートを切っています。

(C) 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

また「インデペンデンス・デイ」の続編「インデペンデンス・デイ/リサージェンス(原題:公開日未定)」を控えるなど、今年はFOXも洋画牽引の予感大です。


また、ワーナーブラザーズも昨年「マッドマックス/怒りのデスロード(18億)」や「アメリカン・スナイパー(20億)」でヒットを記録していましたが、16年も充実のラインナップとなります。

(C) 2016 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED  

今年は「バットマンVSスーパーマン(3/23)」他、「ハリー・ポッター」シリーズのスピンオフ「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(公開日未定)」を冬に控えており、スター・ウォーズ同様、年末の興行の目玉となる見込みです。

(C) 2016 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED



●洋画の興行的成功に不可欠なローカライズ


さて最後に、宣伝(マーケティング)的な話し。16年の洋画興行を占う所で、日本におけるヒットで大切なのが“国内へのローカライズ戦略”です。昨年では「ベイマックス」が、その典型でしたね。

※過去ブログ参照


〜16年 オデッセイの場合〜

①米国公開10月 → 日本公開2月
→大作との公開バッティング回避、宣伝スケジュールの確保

②原題「MARTIAN」 → 邦題「オデッセイ」
→よりSF映画として耳なじみ・分かりやすさ重視のタイトル設定

漫画「宇宙兄弟」とコラボした劇場予告の制作
→客層を映画好きから、一般層まで敷居を下げる施策

④スター・ウォーズへの予告アタッチ
→延べ800万人以上へのリーチと、次映画館で観るならこの1本の雰囲気づくり

⑤潜在ターゲットへプロモツィート、Facebook広告
→映画ファンは勿論、こちらも一般層への囲い込み施策として


以上の点で、現在大ヒット中の映画「オデッセイ」は日本に馴染ませるため、限りあるコストの中で客層を広げるため【押さえる所】をきちんと押さえている感でした。

映画の興行的成功において、毎回賛否が別れるローカライズ施策ですが、配給側が、映画という商品をマーケティングする上では必要不可欠な努力です。

ラインナップも充実している2016年。そうした影の努力もありつつ、引き続き劇場と世の中が賑わうことを、一人の映画ファンとして期待します。




2015年8月23日日曜日

映像配信の巨人、進撃のネットフリックス。



http://www.real.com/resources/wp-content/uploads/2013/03/video-on-demand.jpg

VOD(ビデオ・オン・デマンド)という言葉があります。映画やドラマ、アニメなどを有料視聴する方法として、日本でも「itune」「Amazon」「Youtube」「Hulu」「U-NEX」「dビデオ」等のサービスを利用して、PCやスマホから好きなときに好きな作品を視聴するスタイルが定着してきてますね。

http://wowow-i.jp/v20110531/img_news/primary/default/1183.jpg

日本でも成長市場であり、色んな事業者が色んなことをやっているカオスなこの分野に、今年春頃、米国ビデオ・オン・デマンド最大手のネットフリックスが遂に上陸してくるというニュースが流れ、業界内でも話題となりました。


https://www.netflix.com/jp/

サービス開始は9月2日、間もなくとなります。いつもは仕事柄、映画宣伝の話が多いのですが、実はその辺りとも無関係ではなかったり。今回は日本におけるビデオ・オン・デマンドとネットフリックス上陸について、備忘録も兼ねてまとめ書きしたいと思います。


●もくじ
①日本のビデオ・オン・デマンド
②業界最強ネットフリックスって?
③検索不要?高精度のレコメンド
④オリジナルコンテンツ制作の意欲
⑤日本の映像制作が変わる?

まず、ネットフリックスが参入してくる、現在の日本のビデオ・オン・デマンド市場はそもそもどんな状況か。



①日本のビデオ・オン・デマンド

http://bmbb.jp/2014/04/vod/

当ブログをご覧の方で、既にいずれかのビデオ・オン・デマンドサービスを利用されている方も多いのではないでしょうか?数年前まで有料動画配信となると、提供されるコンテンツはアニメや韓国ドラマなんかが主流で、好きな人向けけ、ニッチな利用イメージが強かったかもしれません。

それが次第にスマホやタブレットが普及し、通信テクノロジーも発達すると、僕たちのインターネットによる動画接触時間が増え、ビデオ・オン・デマンドもサービスを拡充していきます。

扱われるコンテンツも邦・洋メジャー映画やドラマがどんどん増えてきましたね。

hulu上陸以降は、定額制サービスも一般利用が進み、“誰でも使うサービス”というムードが醸成されてきています。

しかし、認知度が高まる一方で、この手のサービスが一度も利用したことがないという人も多く、利用層と非利用層の溝が深い、これから感もたっぷりな業界と言えます。

http://hikaku-site.up.n.seesaa.net/hikaku-site/image/E59BB31.png?d=a613564

僕たちがビデオ・オン・デマンドと呼ばれるサービスの利用で、課金するパターンは大きく分けて2つ、都度課金と定額料金で見放題のサブスクリプション課金です。

図で見ると、ItuneStoreが都度課金特化、Huluは定額特化、TSUTAYAとU-NEXTがその間を取るようなイメージですね。また、一覧図の中にはありませんが、国内ではd-tv(旧dビデオ)がhuluと並び人気です。以下、簡単に比較です。


●Hulu



月額料金933円(税抜き)
動画本数約1万本以上
ジャンル洋画/邦画/アジア映画/海外ドラマ/国内ドラマ/アジアドラマ/アニメ/キッズ/ドキュメンタリー
無料期間2週間の無料トライアル期間あり




●d-TV


月額料金500円(税抜き)
動画本数約12万本以上
ジャンル洋画/邦画/アジア映画/海外ドラマ/国内ドラマ/アジアドラマ/アニメ/音楽/BeeTV
無料期間31日間の無料トライアル期間あり



これらのサービスが群雄割拠する動画配信市場は、この数年でみるみる拡大しています。(下記図のオレンジ部分が該当)


※引用)ミルビィブログ 有料課金動画配信を知る、始めてみる Part5〜市場編2014年版〜

少し古いデータですが、デジタルコンテンツ協会の発表によると、2013年の動画配信市場は約1230億円で、前年比121%。DVD&BDのセルの割合が伸び悩む中で、順調にパイを増やしています。

2018年迄には、1981億円まで成長するとされており、セル&レンタルと同規模の市場となることが予想され、パッケージ低迷の中、ビデオ・オン・デマンドには、映像市場という大きな文脈で、今後の屋台骨としての期待が寄せられています。

余談ですが、映画(興行)の市場規模はこの数年変わらず2000億円程度なので、セル2400億、レンタル2184億、動画配信1230億、主要どころで年間8000億とかが、お金を払って映像を見る市場のざっくりな規模感となります。

この映像市場(配信市場)に鳴り物入りでやってくる、ネットフリックスとはどんなサービスなのでしょうか。


②業界最強ネットフリックスって?

http://antyweb.pl/netflix-wzial-sie-za-pelnometrazowe-filmy-i-ma-szanse-podbic-kina/

ビデオ・オン・デマンドの巨人と称されるネットフリックス。本国では4000万を超える加入者、全世界で50カ国以上、6000万超ユーザーを抱え、その全てが有料利用者という業界最大手となります。


http://www.panoramaaudiovisual.com/wp-content/uploads/2014/12/Reed-Hastings.jpg
創業者:ヘイスティング氏

日本での知名度は、まだそれ程高くありませんが、アメリカではブロードバンド接続を持つ家庭ならば殆どが利用し、現在アメリカのインターネットトラフィックの半分が、ネットフリックスとユーチューブだと言われるほど(サンドヴァイン調べ)。

実は、既に日本でサービスを開始しているhuluやドコモのdビデオは、ネットフリックスを手本にサービスを作っています。そんな本家が、日本に上陸しようとしているわけです。

http://marketing.crevo.jp/column/netflix-data-and-history/

ネットフリックスが配信する作品は、ハリウッド作品の配信はもちろん、独自制作のドキュメントやドラマ、映画といった映像作品も配信しているのが特徴。

国内Huluが、ドラマ中心に約1万作品を提供し月額933円(税抜)。
dTVは、約12万作品を提供しながら月額500円。

そうしたなか、ネットフリックスは映画が5万作品以上、ドラマ他で1,500作品以上というポテンシャル。そして8月24日、遂に日本での料金体系を発表しました。

参考:http://mediaborder.publishers.fm/article/9179/


他サービスと比較してみると、こんな感じです。


参考:http://mediaborder.publishers.fm/article/9179/


このように、ベーシックはdTVより高く、スタンダードはhuluとほぼ同じ、プレミアムはU-NEXTより安い感じ。やはり視野にはdTV、huluを競合として捉えていそうですね。個人的には、良心的な料金設定な気がします。

とはいえ、金額だけでは今イチ、サービスの違いが見えてこない、という方も多いかと。以下は、ネットフリックスが注目される、2つの大きな価値について。


③検索不要?高精度のレコメンド機能



ネットフリックスの価値は、ある2点に集約されます。そのうちの一つが高精度のレコメンドに代表される、テクノロジー。派手さはありませんが、まさしくネットフリックスがプロダクト・イノベーティブであるポイント。

本当かどうか疑いたくなる数字ですが、本国で4,000万を超えるユーザーの全視聴において、実に75%がオススメ機能から動画を観ているとのこと。驚くべき数字です。

例えば僕が◎◎観たいな〜。検索、検索・・・という前にあれ、オススメ欄にあるじゃん!さらには、あ、けどこっちのが観たかったんだ!視聴、視聴…となるわけです。

ネットフリックスは、膨大な数の作品からメタデータを作成、それに沿綿密に分類。その上で、ユーザーがどんな動きをしたか、どの作品を視聴したか、しなかったかを詳細に分析。「このユーザーにはこの作品がオススメ!」を導き出すアルゴリズムの開発に成功しています。

日本のネットフリックスも、立ち上がりの時点で社員の50%がエンジニアで構成されているそうで、技術面に強い自信を持っているそうです。レコメンドの精度もどれほどのものなのか、早く僕もサービス利用し、確かめてみたいところ。



④オリジナルコンテンツ制作への意欲とクオリティ


ネットフリックスのもう一つの大きな価値は、オリジナルコンテンツの制作です。ドラマ『ハウス・オブ・カード』はイギリス原作のTVドラマ『野望の階段』のリメイク。この主人公が語りかけてくるちょっとメタなスタイルも、原作ドラマからの踏襲だそう。

物語は、ホワイトハウス入りの夢を潰された政治家フランシスの壮絶な報復を描くもので、巧妙な駆け引きや男女の欲望が複雑に絡み合うドロドロのストーリーが人気です。

監督は、デヴィッド・フィンチャー(『セブン』『ファイトクラブ』『ソーシャルネットワーク』『ゴーン・ガール』)。主演はケビン・スペイシー(『セブン』『アメリカン・ビューティー』)と豪華な組み合わせ。

僕もフィンチャー作品は大好きで、映画フォロワー・フィンチャーフォロワーはニヤリとする場面が節々にあり、作品自体とても面白いです。この『ハウス・オブ・カード』、ネットフリックスが約100億円(2シーズン分)という破格のスケールで制作したというのですから、驚きです。


(c) Netflix. All Rights Reserved.

(c) Netflix. All Rights Reserved.

(c) Netflix. All Rights Reserved.

さらに『マトリックス』『ジュピター』のウォシャウスキー姉弟が監督を務める『センス 8』は既に本国でネットフリックス制作のドラマとして人気を博し、『アベンジャーズ』や『アイアンマン』のマーベル原作『Daredevil (原題)』ドラマ版制作も気になるところ。

この他、ネットフリックスはIMAX映画の製作に着手しており、今後ネットフリックス上と一部のIMAXシアターだけで封切ると発表しています。

ネットフリックスは「総制作費数百億とかしちゃうような超ビッグバジェットムービーを、名監督つけて、すげークオリティでつくるぜ!(つくれるぜ!)」と言っており、事実そのスキームが出来上がっています。

中でも『ハウス・オブ・カード』はテレビ界のアカデミー賞とも言われるエミー賞3部門受賞、ゴールデングローブ賞を受賞。目に見える形での“大成功”を収めました。

そしてこの成功には、ネットフリックス第一の価値であるテクノロジーをバックボーンとした“データドリブン”が大きく関係しています。

http://blogs.itmedia.co.jp/serial/2014/06/5netflix1---d0fa.html
ハリウッドのドラマ作りを根本から変えるとまで言われる『ハウス・オブ・カード』の成功

・いつ(日付/曜日/時間)
・どこで(郵便番号)どんなコンテンツが見られているのか
・どのデバイス(TV/PC/スマホ/タブレット)で
・どんな人(年齢/性別)が
・どんなコンテンツにアクセスしているのか
・停止、巻き戻し、早送りポイント
・どこで止めて、どこで離脱するのか
・ビデオ検索(1日に300万回)、ビデオ選択の行動、ビデオ評価などの記録
・動画の中のスクリーンショットでユーザーが好む/嫌う色、シーン、ボリュームなど

ネットフリックスが活用できるデータとして、上記のようなものがあるそうです。そして、オリジナルコンテンツの制作を検討していたネットフリックスは、データの分析によって、以下のポイントの見える化に成功しました。


http://matome.naver.jp/odai/2141889544479963501
デビッド・フィンチャー監督

●ユーザーの嗜好分析から
→ユーザーの多くが、デヴィット・フィンチャー監督の『ソーシャルネットワーク』を最初から最後まで見ていた。

→ 原作版「ハウス・オブ・カード」がよく見られていたこと。原作版を見ていたユーザーが、デヴィッド・フィンチャー監督作品、もしくはケヴィン・スペイシー出演作品をよく見ていた。

→さらに、ユーザーの傾向に合わせて予告を10種類近く制作。


→デヴィッド・フィンチャー監督作品をよく見ている人には、フィンチャー感あふれる予告映像を配信。

→ケビン・スペイシー出演作品をよく見ている人には、彼を中心にした映像を配信。

→女性が登場人物の映画やドラマをよく見ている人には、出演女優にフィーチャーした映像を配信。


(c) Netflix. All Rights Reserved.

●映像の離脱傾向から
→通常アメリカのドラマは第1話を制作し、その反響を見て制作の継続を判断するところ、2シーズン分の制作(100億円)を発注。1シーズン全13話を一気にリリースすることで、ユーザーを1週間待たせるのではなく、続けての視聴を促進を図りました。

参考:データドリブンで制作された大ヒットドラマ「House of Cards」、何がデータドリブンなのか調べてみた/Be Magnetic! 


上記の通り、『ハウス・オブ・カード』は企画/製作/プロモーション/リテンション(顧客維持)と、とってもグロースハック的なアプローチで作られた商品といえます。(※これはトラディショナルなテレビがもっとも苦手とするところ)

言うは易しですが、実際にこのデータの土台があったとして、100億円を先行投資するというネットフリックス、その情熱たるや計り知れません。

そんな彼らのオリジナルコンテンツ制作の意欲はとどまる事を知らず、既にアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが発表していますが、任天堂と組んで人気ゲーム「ゼルダの伝説」実写版を制作するそうで、制作費100億円(?)のゼルダ、今から期待大です。


⑤ネットフリックスで日本の映像制作が変わる?

インターナショナルでは、さらなる名匠・名スタジオと手を組み、ラインナップを充実させつつあるネットフリックス。もうお分かりの通り、彼らはものづくりのモチベーションが非常に高く、確かなテクノロジーがあり、ハリウッド級のお金があります。

そのネットフリックスの日本上陸で期待するのは、やはり日本オリジナル/ローカルコンテンツの制作です。ここがめちゃくちゃ気になります。

日本の映像市場は、邦>洋ニーズ、とてもローカル愛が強いマーケット。ネットフリックスも日本でのサービスを開始させる上で、まず国内需要対策として、フジテレビと共同で制作される、『テラスハウス』新シーズン、ランジェリー業界の裏側を描く桐谷美玲主演のドラマ『アンダーウェア』など、日本オリジナルのコンテンツ制作を発表しています。



一方で僕が気になるのは、対海外向けの日本コンテンツ制作。

ハリウッド映画のようなビッグバジェットを持てない日本が、ネットフリックスと映画制作・ドラマ・アニメ制作で上手く融合できれば、今後の日本の映像制作は、これまで進むことができなかったステージに到達できるかもしれません。

http://livedoor.blogimg.jp/scandalsoku/imgs/8/0/80ae51cf.jpg

僕と同じよう邦画『進撃の巨人』で最高に残酷でシュールな4DX劇場体験するような人も、もう出なく済むかもしれないのです(※あくまで個人の感想)。

予算組・製作座組…その映画を“本当に作れるチーム”が、これまでに無かった最適な形で編成される、ネットフリックスはそんな国内の映画づくりの、きっかけとなる可能性があります。

実際に、今後の日本でのオリジナルコンテンツ制作を、ネットフリックス本体がどのように考えているのか。以下ガジェット通信の、日本法人社長ピーターズ氏へのインタビュー記事を引用させて頂きます。



――グローバルに展開しているサービスにおいて、日本市場はどのような役割を担っているのでしょうか。

ピーターズ氏:ユーザーの獲得はもちろん、クリエーター側に期待することは大きいです。日本には(映像コンテンツの原作となりうる)素晴らしいストーリーがたくさん存在します。

しかし、これまでは何らかの理由でストリーミングできるような作品としては作られてこなかった、あるいは海外で観ることができなかったものが多くあります。日本のクリエーターと協力して、世界に日本のコンテンツを届けていく役割は大きいと感じています。


――優れた原作がある一方で、映像化する技術は米国の方が上だという見方もありますよね。

ピーターズ氏:原作のアイデアが豊富にあるというのは非常にクリエイティブなことです。満足のいく映像化を実現できる技術を持ったクリエーターが足りていないのであれば、10年、20年という長いスパンで成長させてくことも必要でしょう。

世界のクリエーターたちを日本のクリエーターたちと交流させることでお互いに学び合うことがあるなら、我々がそのキッカケを作ることもできるかもしれません。

引用:http://getnews.jp/archives/1077573

勿論、立ち上がってすぐにことではありません。時間をかけるという前提で、ネットフリックスというインフラで、需要と供給の整合が取れれば、日本のコンテンツが最高のクオリティで海外に輸出されていくチャンスがあります。全世界に6000万人もの視聴者がいるプラットフォームで、日本発のコンテンツをアピールすることができるわけです。

若いクリエイターがコンテンツ制作の分野で、日本からアメリカン・ドリームを体験することも、決して無い話ではありません。

とはいえ、映画もアニメも放送局の出資としがらみが大きい日本。日本の放送局にとって、ネットフリックスが日本国内で支持を得て行く事は、自分達の未来の市場を侵される〜ということにもつながり、交通整理に時間はかかると思われます。

まずはHulu的な根付き方になるかとは思いますが、日本というマーケットにどうフィットしていくのか、9月2日のサービス開始が楽しみです。

※8月24日(月)料金発表を受けて更新