2013年9月21日土曜日

【事例】ターゲットの気持ちを“アゲる”!!ユニークな映画プロモーション3選



皆さんは、映画をご覧になりますでしょうか。また、どれくらいの頻度で、気になる新作映画を観るため、劇場まで足を運ぶのでしょうか。近年のデータでは、成人が1年間のうちに劇場を訪れる回数は、“1.14回”なんて言われています。

多いか、少ないか。感覚は人それぞれだと思います。この貴重な1回の鑑賞機会を獲得するために、或は、鑑賞機会そのものを増やす為に、作品の魅力をどのように伝え、生活者の心をどのように涌かせたらいいのか。配給会社、専門の宣伝会社、劇場、そして僕たち広告会社のスタッフは、日々熱い議論を交わし、悩んでいます。

今回は、そんな悩みをブレークスルーする、ユニークな映画のプロモーションの事例を3つほど紹介したいと思います。




『ライフ・オブ・パイ』
映画の世界観を身体全体で体験する水上試写会



日本での最終興収も19億円を超えるヒット作となった、映画「ライフ・オブ・パイ(2012年公開)」のフランスでの試写会はとてもユニークなものでした。

なんとその試写会は、作品の舞台が「小さなボートの上」ということで、それにちなんだ会場としてプールを貸し切り、水上に小さなボートを並べ、そこを観客席としてしまったのです。






一目見て分かるように、映画の世界を、目と耳だけでなく【身体全体】で体験してもらう演出です。上映中の約2時間は背もたれもなく、微妙に揺れる、決して居心地が良いとは言えない“座席”でしたが、参加者は皆大満足したとのこと。




身体性を伴う体験は、身体に強く、深く刻まれます。少年パイと限りなく同じシチュエーションを疑似体験してもらうことで、その経験価値は通常の映画鑑賞の何倍も引き上げられ、招待客もより作品を「ジブンゴト化」してくれたのではないでしょうか。

『ライフ・オブ・パイ』自体、かなり強く【3D】を意識した視覚表現が盛り込まれているので、その文脈から見ても、こうしたアトラクションタイプの試写は、まさにドンピシャと言えます。

奇抜さやニュース性だけでなく、鑑賞の経験価値を引き上げるこの試写会は、メディアや招待者のポジティブなレビューや口コミに繋がったことでしょう。こんな試写会があれば、例え作品に関心が無かったとしても、ついつい参加してみたくなっちゃいますね。



『モンスターズ・ユニバーシティ』
心躍るマジック・プロモーション


日本では7月6日に公開されているディズニー・ピクサー最新作「モンスターズ・ユニバーシティ」。公開2日で興収8.5億円、ピクサー史歴代3位の滑り出しを見せ、2013年9月現在で興収80億円を超えています。

この「モンスターズ・ユニバーシティ」のプロモーションで、ブラジルの子供たちの心を掴んで離さなかった事例を紹介します。




モンスターズシリーズの世界で、モンスター達が憧れてやまない職業が『怖がらせ屋』です。子供が最も怖がるものの一つに「暗闇」があります。そんな暗闇を、ちょっとした仕掛けで楽しんでもらおうと考案されたこのプロモーションでは、「モンスターズ・ユニバーシティ」のキャラクター型にくりぬかれた特注のシールが制作されました。




これらのシールは、車のヘッドライトに貼り付けることができ、ドライバーが車のライトをつけた瞬間、目の前の暗闇には魔法のようにキャラクターが浮かび上がるという仕掛けになっています。



ファミリー映画故に、劇場などを備えた大型商業施設などでサンプリングすれば、非常に高い効果を発揮します。或は、お父さんをターゲットに新聞の折り込み広告などにしても良いかもしれません。映し出された影を見た子供が、「映画を見たい!映画館に連れて行って!」とせがむ絵が目に浮かびますね。シンプルで子供が喜びそうな、素敵なアイディアです。



『ローン・レンジャー』
コスプレ取材陣を集めたジャパンプレミア



最終的にチケットを購入し、映画を鑑賞する一般生活者は「お客様」であり、その気持ちをアゲるのが、プロモーションにおいても一番重要なのは“言わずもがな”です。一方で、映画を世に届ける協力をあおぐメディア関係者達も、「パートナー」として気持ちをアゲる相手であり、無視できない存在といえます。

ジョニーデップ主演の最新作『ローン・レンジャー』(2013年8月公開)のジャパンプレミアでは、対メディア関係者に向けて、ユニークな取り組みが行われました。




ジャパンプレミア開催前、全国のメディア関係者の下には、イベントの案内とともに、謎のボックスが届きました。






箱を開けてみると、中には映画の主役、アーミー・ハマー演じる正義のテキサスレンジャー=「ローン・レンジャー」が装着しているアイマスクと、ジョニーデップ演じる先住民族=「トント」の白塗りメイクが実践できる、手順シートが入っていました。

そしてジャパンプレミア当日、招待を受けた取材陣達は、皆ローン・レンジャーとトントのコスプレをしてイベントに臨んだのです。







イベントは、雨天にも関わらず計2000名の来場者が訪れ、六本木ヒルズアリーナとその周辺を大いに涌かせました。こうした、取材陣だけでも数百人が集まるレッドカーペットイベントでは、来日するジョニー・デップなど、ハリウッドスターからコメントを貰うのは至難の業です。主要キー局を除いては、かなり望み薄と言えるでしょう。

全国各地から集う取材陣からすれば、こうしたコスプレを見にまとい目立った方が、来日キャストの注意を引いて、インタビューを獲得し易い”というメリットがあります。

また、配給会社側にしても、キャラクタープロモーションとしてお祭り感の醸成や、来日キャストのモチベーションをアゲるといった狙いがあり、運営側とメディア、双方が一つとなってイベントを盛り上げた好例と言えるでしょう




面白い!と思った事例はありましたでしょうか。私事ではありますが、今年のはじめ頃からこれまでの音楽領域に加え、映画とストアマーケティング(リアル店舗への集客施策)も考えるようになり、日々試行錯誤しながら、楽しく仕事をさせてもらっています。

以降は、音楽・映画・店舗マーケティングの事例はじめ、いろんなネタ備忘録していきたいと思います。(※写真は千葉に散歩しに行ったときに撮った無人駅です。とってもあじのある良い駅でした。)

以上、『仕掛けた相手の気持ちを「アゲる」ユニークな映画プロモーション3選』でした。最後迄ご覧頂き、ありがとうございます。





2013年1月14日月曜日

音楽をジブンゴト化する【共創】事例_(後編)


音楽の「ジブンゴト化」を生み出すには、いくつかの方法が考えられます。それらは、いずれも共通して【経験価値の向上】の発想が必要不可欠となります

前回から前・後編に分けて【共創体験】による経験価値の向上、そしてジブンゴト化について書かせて頂いておりますが、後編の今回は“よりアーティストの音楽活動そのものにユーザーが大きく組み込まれた共創事例”と“ユーザー対ユーザーに発生した共創事例”をご紹介したいと思います。

前回→音楽をジブンゴト化する【共創】事例_(前編)



〈事例4〉
ファンに“関与”という経験価値を提供し続ける、
共創アイドルAKB48。


既に各方面で様々な論考がされているAKB48。そのビジネスモデルには、皆さんご存知の「握手会」「選抜総選挙」「じゃんけん大会」など、ファンがアーティストに関与することで、ジブンゴト化が促進される仕組みが多く設けられています。


■予備知識:AKB48の握手会とは?

会えるアイドルをコンセプトとするAKB48の握手会は「全国握手会」と「個別握手会」の2種類が存在します。後者はプロジェクトのメンバー全員が参加し、握手券はAKB劇場販売CDにのみ封入されます。こちらは特設サイトから日程とメンバー、時間帯を【指定】して申し込むことができる握手会です。しかし握手会の都合上、CD出荷枚数はメンバー・日程・時間帯ごとに決まっているため、劇場盤を購入するためにも抽選が行われることから、推しメンの子と会うにはそれなりの苦労を要します。(人気メンバーの倍率にもよる模様です)

対して「全国握手会」は20人程度のメンバーが参加し、CD購入時点で出席メンバーはわからず、当日握手したいメンバーのレーンに並ぶ流れとなっています。




さて、本題の経験価値の向上とジブンゴト化の話。こうした苦労を乗り越え、晴れてファンは「がんばって下さい!応援してます!」と、これまで気にかけ応援してきた推しメンの手を握り、自分の言葉で直接エールを送ることができます。ファンにとってはこの上ない経験価値の向上です。

同様に選抜総選挙では、ファンは会員となるか、CD(握手券)を大量購入・投票する形でAKBを支援する代わりに「推しメンのあの子が時期シングルの選抜メンバーに選ばれる(かも)」というフィードバックを受けます。これはアーティストの未来への関与です。

AKBというアイドルの応援において、ファンは握手会で直接推しメンとコミュニケーションし、経験価値を向上させながら、その子のステップアップを見守ります。やがて、それぞれの推しメンを応援する集団の中でも、最も「熱い」コミュニティによってプッシュされるメンバーは、圧倒的な組織票を受け、更なるスターダムへと上ります。そのコミュニティのファンの間には【この子は自分達が育てた(育ててきた)】という自覚が芽生え、AKBというアイドルがきわめて高い濃度でジブンゴト化されていきます。

AKB48は、それ以前のアイドルグループには無かった、物事のをジブンゴト化を促進させる上で重要な「関与」というフィードバックを用意しています。

AKBは様々なメディア・ブランドタイアップをはじめ、競馬、パチンコ、ゲーム、アニメ〜にコンテンツを解放し、小さなジブンゴト化をあらゆる角度でつくります。そして、「会えるアイドル」としてのコンセプトを曲げず、ファンの応援にメンバーが直接対応し、経験価値の向上を生み出します。そして、その熱量の集積はメンバーの編成や編曲など、確実にアーティストの未来に作用する、音楽表現を超えて、音楽活動そのものにファンを巻き込んだ共創形態といえます。


〈事例5〉
ユーザーによるユーザーのための共創コンテンツ、
初音ミク

           
初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディア社が提供する音声合成ソフト(およびそのキャラクター名)として2007年に発売されました。数多くのアマチュアクリエイター達から、楽曲・イラスト・MVなどの投稿作品をニコニコ動画上で集め、今やとてつもなく大きな【n次創作】のムーブメントを巻き起こしています。

(※これは、販売元のクリプトン・フューチャー・メディア社が、非営利であれば、ユーザーの創作活動に歌声の利用だけでなく、キャラクターの利用も無償で許可をしている点に起因します。)

ユーザーによる創作物の中には、キャラクター利用の許諾を受けた上でCD、書籍などの形で商業展開が行われたもの、ゲームソフトやアニメ、キャラクターフィギュア、企業とのタイアップキャンペーンなども展開しています。


一つの楽曲投稿からユーザー間で世界観を広げ続け、アニメーション、マンガ、ゲームなどにも拡張した「ブラックロックシューター」の事例。


また、ファミリーマートが2012年8月31日、5周年を迎える“初音ミク”の誕生日に合わせて実施した「初音ミク 5th Anniversary ミク LOVES ファミマ♪キャンペーン」では、8月14日(火)〜9月10日(月)の39日間開催され、「はちゅねミク肉まん」など、全26種の初音ミクコラボ商品が販売され、ネット上でも大きなバズを呼びました。



    


さらにジャスティン・ビーバー、レディ・ーガガが起用されたGoogle ChromのグローバルCMにも出演。CM曲の「Tell your world」はituneで1位に、3月に発売されたCDも週間4位を記録しました。いずれもユーザーの創作や文化を取り入れる(反映する)形でコラボレーションは実現し、ユーザーからユーザーへの、ユーザーから企業への世界拡張は今なお続いています。


初音ミクという素材をユーザーに預け、ユーザーが初音ミクのコンテンツの増幅装置となる、アーティスト対ユーザーではなく、ユーザー対ユーザーの【共創活動】の最たる事例が、この初音ミクです。だからこそ、ファン同士の初音ミクというコンテンツに対するロイヤリティは、並々ならぬものがあります。例えば、昨年11月アメリカの3大ネットワークの一つ、CBSがニュースサイトで初音ミクを「Hatsune Miku The world's fakest pop star(世界で最も偽者のポップスターだ)」という記事を掲載したところ、多くのファンから批判と謝罪を求める書き込みが殺到し、記事のコメント欄が「炎上」しました。



他のどんなアーティストよりも、初音ミクというバーチャルアイドルがファンにとってはジブンゴトであり、不当な批判を受けることは我慢できないのです。このムードを醸成しているのが共創という文化であり、その文化の中でユーザーは互いに敬意を払っています。


初音ミクを育んだニコニコ動画は、とりわけその共創文化を色濃く持っています。「視聴者様は帰れ」という言葉がしばしば飛び交うニコニコ動画では、自分の立場を一切問われることなく、安心して動画の批判を書き殴る、“消費的なメンタリティ”を許しません。「じゃあお前がやってみろ」「これをやるのにどれだけ苦労すると思ってるんだ」と反発を起こします。共創コンテンツの下に集うユーザー達の一体感はとても強く、その対象を支援します。初音ミクは、まさに皆の共有資源であり、財産であり、アイドルなのです。

音楽は、最早ただの音楽というだけでは人の耳にも心にも届かなくなりつつあります。どういうプロセス(価値体験)を経てユーザーの元に届くのかが、より重要となってきます。共創は、音楽表現・音楽活動にユーザーを取り込み、ジブンゴト化を促進させる一つの方法論です。今回はその事例を前編・後編にてご紹介させて頂きました。

引き続き当ブログでは、音楽プロモーションを通じた経験価値の向上、ジブンゴト化の促進事例の紹介と考察をしていきたいと思います。(もちろん、仕事は音楽案件以外も担当させて頂いているので、様々な広告事例の紹介・考察などもできればと思っています。)最後までご覧下さい、ありがとうございました。ご意見・ご感想なども頂ければ、幸いです。



2013年1月6日日曜日

音楽をジブンゴト化する【共創】事例_(前編)


音楽プロモーションにおいて、マスメディア的コミュニケーションは効果を生み出せなくなってきています。「曲は→聴かせる、PVは→見せる」という一方的な【浴びせる発想】は早々に捨て、曲を気にかけもらうには、話題にしてもらうには、好きになってもらう為には、どんなコンテンツ・クリエイティブを提供すればいいのか。

その施策でリスナーの【体験(経験)価値】をどのように向上させ、楽曲・アーテイストへの【ジブンゴト化】を生み出すことができるか。

マスメディア的な文脈で「(アーティスト名)!(タイトル)!(発売日!)オンセール!」と他人事の情報を一方的に浴びせても、基本的にはノイズでしかなく、ファン以外の生活者に好意は抱いてもらえません。そう前回のブログでは書きました。




音楽の「ジブンゴト化」を促すには、楽曲(プロモーション)を通じた【経験価値の向上】が必要不可欠です。

※ 経験価値とは、モノ・コト・バショに関する経験から感じた価値(=楽しかった、面白かった、快適だった、感動した)のことです。プラスの経験価値が大きいほど、対象となるモノ・コト・バショへの愛着は深まり、その経験を誰かに伝えたい欲求が高まる、と言われています。

一番分かりやすく経験価値が引き上げられるのは、やはりアーティストのパフォーマンスをリアルに味わう“ライブ体験”と言えるでしょう。現状、これ以上に身体性を伴う音楽体験はありません。とはいえ、ファンでもないリスナーが、知らない・興味無いアーティストのライブへ足を運ぶというのも、中々ハードルがあります。

ライブという接触形態ではないにしろ、音楽案件のプロモーションではその情報に接れた者が、【何か】を体験し、経験が引きあげられる必要があります。

音楽の「ジブンゴト化」を生み出すには、いくつかのポイントがあります。今回は、そのうちの一つを事例とともにご紹介したいと思います。




case.1 共創(co‐creation





今回、ブログでご紹介するのは【共創体験】によるジブンゴト化です。ここでの【共創】とは、アーティストの音楽表現、或は音楽活動の一部にリスナー自身が組み込まれる、という意味を指します。



〈事例1〉

映像表現の中にユーザーが組み込まれる、

インタラクティブミュージックビデオ。


■SOUR / MIRROR(映し鏡)


まずは体験してもらうのが一番早いでしょう。(※少々面倒かもしれませんが、Twitter、Facebook、Webカメラ、接続するほど感動が増しますので、全ての接続をオススメします)

特設サイトで自分のTwitterやFacebookのIDを連携させ、Webカメラと接続設定。「Play」をクリックするとGoogleのトップページが現れます。検索窓には自分の名前が入っており、そのままWeb検索、画像検索する様子が流れます。

色んなサイトを横断したり、小さいウィンドウがたくさん出て混ざったり、とにかく技術がすごいです。Twitter・Facebook・Webカメラと連携したインタラクティブなミュージックビデオを楽しむことができます。(※対応ブラウザは「safari」と「Google Chrome」のみ)

映像演出の中に自分と、自分のソーシャルグラフ上の知人が出てくる体験はとても面白く、参加された方は“経験が引き上げられた”のではないでしょうか。デジタル上で、まさに視聴者が音楽表現の一部としてMVに参加できてしまう事例です。



〈事例2〉

相手に音楽を届ける、ミュージックビデオゲーム。


■androp/Bell



SOURのMIRROR(映し鏡)の事例よりは、幾分ユーザーに能動的な操作を求められはしますが、こちらもユーザーが音楽表現に組み込まれる事例です。

ユーザーはtwitterと連動したサイトにアクセス。届けたい相手とメッセージを決めたら、そのメッセージが犬やウサギに変身。相手ユーザーを目指して走り出します。(※動物が走っている画面中、ずっとandropの楽曲bellが流れています)

ユーザーは動物をキー操作することができ、迫りくる様々な障害をよけながらゴール(メッセージの到着)を目指します。極力ダメージを負わずにゴールできれば、メッセージはきちんと読める形で相手に届きます。(※余談ですが、伊藤はゲームセンスが無いため、数回挑戦してもノーダメージでクリアすることはできまでんでした)

メッセージを受け取った相手は、自分にメッセージが届けられた過程(MV)を再生できるとともに、ほかの友達にまたメッセージを送ることができます。

ゲームという身体性、友人にメッセージを届けるという行為により、androp/Bellを通じた音楽体験は、よりユーザーの中に強く残る“体験”となるのではないでしょうか。




〈事例3〉
ファンとバンドが一体となって表現をつくる、

コールドプレイのインタラクティブなLEDライブ。


■coldplay/Charlie Brown

   


今度はリアルな音楽表現にユーザーが参加する事例です。英国出身の人気ロックバンドColdplay (コールドプレイ)は、2012年夏にリリースしたアルバム「Mylo Xyloto (マイロ・ザイロト)」のプロモーションのため、世界ツアーを行いました。彼らは、ファンがバンドと一体になってライブを楽しめる、インタラクティブな音楽体験を提供しています。



    

アーティスとの奏でる音楽とファンが一体となったこの光景には、ただただ圧巻です。この演出の仕掛けは、ライブ参加者全員に無料で配布された、「Xylobands」というリストバンドにあります。





様々なカラーのLEDで発光するこのXylobandsは、専用のソフトウェアを使うことで、ライトアップするタイミングとパターンを信号で制御することができます。(会場での制御範囲は約300メートルとのこと)

この機能により、一定時間発光・点滅するだけの従来のサイリウムではなし得なかった、曲に合わせた発光演出が可能となり、ファンとのリアルな音楽表現の共創を実現させています。結果、この演出は多くの来場者が経験価値を大きく向上させたことでしょう。



さらにこの特別な体験は、ファン自らコールドプレイの特設サイト上に共有することができ、“参加者の感動”がそこでは集約されます。よりライブ(アーティスト)のジブンゴトが促進される環境が整えられた好例と言えます。




以上、音楽のジブンゴト化を促進する【共創】事例(前編)でした。3つの事例は、より各論的な【音楽表現】としての共創事例です。後編は、もう少し大きな視点で、アーティストの音楽活動そのものにユーザーが大きく組み込まれた共創事例などもご紹介できればと思います。最後までご覧頂き、ありがとうございました。



               音楽をジブンゴト化する【共創】(後編)に続く

2013年1月1日火曜日

【レコ大】服部氏「これが日本の音楽業界の現状です」の現状とは?




30日、TBSで放送された第54回レコ−ド大賞。受賞は2012年のオリコン年間ランキング第1位であるAKB48「真夏のSOUNDS GOOD!」となったわけですが、発表直前に服部克久 氏(日本作曲家協会会長・制定委員長)が発した一言がネットで物議をかもしました。

"日本作曲家協会会長・制定委員長の服部克久さんはレコード大賞で「これが日本の音楽業界の現状です。楽しんでいただけましたでしょうか」と発言。あまりにも意味深なこの発言はネットで波紋を呼んでいた。

中には暴言だ・皮肉だなど騒がれ、日本の音楽業界の現状をAKBの大賞受賞と重ねて発した言葉ではないかと物議を醸している。

振り返ってみれば今年はオリコンのランキングはAKBが独占するという異例の事態になっている。これを踏まえると大賞は文句なしの受賞ではあるが、作曲家である服部さんがこれに関し深く思う事もあるのかもしれない。”(引用)





CDセールスは握手券やハイタッチ券、ライブ招待券などのインセンティブにより大きくフォローアップされ、それは如実にオリコンに反映されています。服部氏の言うとおり、日本の音楽の"現状”がここには垣間見えます。しかし、これを過去の音楽産業の隆盛期との対比から「音楽が売れなくなった」「所詮握手券頼みか」と簡単に皮肉してしまうのは、如何なものでしょうか。

というのも、かつてオリコンがランキングにより示してくれた【人気】と、現在のオリコンが示す【人気】は、明らかに性質を違えており、この性質の違いの理解なく現状を皮肉することは、少々気が早いにように思います。そこで僕自身のアタマを整理する意味も込めて、本ブログを通じて、オリコン上位陣がAKB・ジャニーズで占拠されることの【意味】を、今一度考えてみたいと思います。




これまでオリコンはCDのセールス状況を、ただただシンプルに見える化してきました。それは今も変わらず、セールスの内実や過程は問われません。

そして音楽のデジタル化により、音源そのものに価値が発生しなくなった現在、1枚1000円近くもするCDはもはや当該アーティストのコアファンでなければ買ってはくれません。12mmのアナログディスクは、ファンとアーティストの関係値の深さを示す、エンゲージメントツールの一つとなっています。


これから言えることは、オリコン上位陣は昔のように、「皆で同じように聴く人気アーティストが名を連ねる場所」ではなく、「よりコアファンと親密で密接な関係を築いているアーティストが名を連ねる場所」へシフトした ということです。

オリコンが示す人気とは、その母数ではなく【人気の熱量】へと意味転換しているのです。この【母数→熱量】への変化こそ、“日本の音楽の現状”ではないでしょうか。



AKBにしろジャニーズにしろ、そのアーティストに対する圧倒的なファンのロイヤリティがランキングに大きな影響をもたらしています。そして、そのファンの熱量に消費し尽くされないほどの、膨大で圧倒的なコンテンツを、AKBとジャニーズは活動の中で生成し続けています。

成熟した日本の音楽業界が歩んだ先は、よりアーティストを「ジブンゴト化」したコアファンと【双方向】に【持続的】にコミュニケーションし続けていくこと。その手段が握手券、投票権、ライブ参加券であったりするのだと思います。

今後音楽マーケットが、そうした【熱量】がものいう形へと傾倒すれば、よりロイヤリティの高いコアファンを抱える声優系歌手なども、オリコン年間ランキングの上位に顔を出してくることも、十分あり得るかもしれません。いずれにせよ、これまでには見せなかった結果(変化)を、2013年以降、またオリコンは反映してくれるのではないでしょうか。

結果として、こうした熱量集団の列柱でマーケットが形成されるのだとしたら、これを簡単に皮肉してしまうのは考えものだなと、年末レコ大を観ながら書かせて頂きました。最後までご覧下さり、ありがとうございます。ご意見・ご感想など頂ければ幸いです。