2012年10月31日水曜日

(11/12更新)マスメディア的発想が生み出す悲しい動作不良



僕の担当している音楽案件では、クライアントもエージェンシーの人間も、ごく一部を除いて、まだまだマスコミュニケーション的な発想を捨てきれていません。

多くの担当者がシングル、アルバムのリリースタイミングで、とにかく効率良く「曲を聴かせる」「PVを見せる」、ということをミッションとしています。



この発想のもとに宣伝予算が投下され、TVスポット・屋外ビジョン・屋外ボード・アドトラック・街頭BGMなどのメディアの【枠】が押さえられ、アーティスト名・曲名・発売日の【基本告知】が行われます。そこでのクリエイティブには、CD音源・ジャケ写・PVといった【基本素材】が流用されます。

また、より費用対効果よくリリース情報を届けるために、プレスを招致したパブリシティイベント(基本的にライブもの)で、「ZIP!」や「めざましテレビ」といった朝のワイドショーへの露出やスポーツ紙、WEBニュースへの掲載が計画・実施されます。

大体この辺りが、ここ数年変わらない業界のアウトプット(宣伝予算の使い方)の通例と言えるでしょう。
しかしお察しの通り、これが機能してるとは到底いえません。


そんな中で、実にならない現行施策に閉塞感を感じるクライアントは、TVや屋外ボードが効かない!施策がCDの売り上げにつながらない! 既存メディアは効果が薄い!」と言って、音楽案件以外で成功事例の聞こえてくるデジタル領域に活路を見出そうとします。そうしたクライアントからは「新曲をソーシャルで話題にして売りたいんだ!」「YoutubeでPVを沢山視聴させたいんだ!」と言ったご相談をよく頂きます。

※同時にイケてない広告会社の人間も「分かりました!
新曲をソーシャルで話題にして売りましょう!」「YoutubeでPVを沢山視聴させましょう!」と言い、一生懸命WEB媒体のセールスシートを用意して、新提案に備えたりします。

これの何が不幸かというと、クライアントも広告担当者もCDが売れない、音楽が聴かれない(広告が効かない)ことのボトルネックの原因を、メディアパワーの衰退であると誤解している点です。(勿論一要因ではあるのでしょうが)



ヤフーのブラパネに広告を打とうが、Youtubeのマストヘッドに広告を打とうが、Youtubeのプロモート動画を打とうが、トゥルービューをやろうが、本質的には何も変わりません。こと音楽案件(業界)における様々な動作不良は、プロモーション領域に限らず、こうしたマスメディア的なシャワー型の【浴びせるコミュニケーション】に起因していると言えます。

当然ではありますが、音楽は日用品と違ってコンビニに売っていません。「なんとなく目に(耳に)入ってきたから、なんとなく買う」なんてことは、そうそう起こりません。情報が氾濫している世の中で、ファン以外のリスナーは基本的に「あなたの曲なんか別に聴きたくないわよ」というお断りのスタンスです。好きなアーティストの好きな曲以外は基本ノイズです。

そんなモチベーションのリスナーに対し、マスメディア的な文脈で「わたし最高だぜ、今度新曲出すぜ、〇月〇日だぜ、買ってね」という売り手都合の情報を浴びせられても、ファン以外の人間の、一体どんな【感情】が動くというのでしょうか。


マスメディア的コミュニケーションは効果を生み出せなくなってきています。「曲→聴かせる、PV→見せる」という一方的な【浴びせる発想】早々に捨て、曲を気にかけもらうには、話題にしてもらうには、好きになってもらうためには、どんなコンテンツ・クリエイティブを提供すればいいのか。その施策でリスナーの【体験(経験)価値】をどのように向上させ、楽曲・アーテイストへの自分ゴト化】を生み出すことができるか。これを実現するアイディアにこそ宣伝予算は投下されるべきであり、この業界を覆う閉そく感を真の意味で打破するポイントはここにあると伊藤は考えます。

この音楽、アーティストは自分におよそ関わりのあるものだという【自分ゴト化】。
それを生み出す、体験(経験)価値を向上させる双方向なコミュニケーション。次回のブログでは、次代の音楽コミュニケーションに求められるこの発想が垣間見える音楽案件の事例を、いくつかご紹介したいと思います。