2013年1月14日月曜日

音楽をジブンゴト化する【共創】事例_(後編)


音楽の「ジブンゴト化」を生み出すには、いくつかの方法が考えられます。それらは、いずれも共通して【経験価値の向上】の発想が必要不可欠となります

前回から前・後編に分けて【共創体験】による経験価値の向上、そしてジブンゴト化について書かせて頂いておりますが、後編の今回は“よりアーティストの音楽活動そのものにユーザーが大きく組み込まれた共創事例”と“ユーザー対ユーザーに発生した共創事例”をご紹介したいと思います。

前回→音楽をジブンゴト化する【共創】事例_(前編)



〈事例4〉
ファンに“関与”という経験価値を提供し続ける、
共創アイドルAKB48。


既に各方面で様々な論考がされているAKB48。そのビジネスモデルには、皆さんご存知の「握手会」「選抜総選挙」「じゃんけん大会」など、ファンがアーティストに関与することで、ジブンゴト化が促進される仕組みが多く設けられています。


■予備知識:AKB48の握手会とは?

会えるアイドルをコンセプトとするAKB48の握手会は「全国握手会」と「個別握手会」の2種類が存在します。後者はプロジェクトのメンバー全員が参加し、握手券はAKB劇場販売CDにのみ封入されます。こちらは特設サイトから日程とメンバー、時間帯を【指定】して申し込むことができる握手会です。しかし握手会の都合上、CD出荷枚数はメンバー・日程・時間帯ごとに決まっているため、劇場盤を購入するためにも抽選が行われることから、推しメンの子と会うにはそれなりの苦労を要します。(人気メンバーの倍率にもよる模様です)

対して「全国握手会」は20人程度のメンバーが参加し、CD購入時点で出席メンバーはわからず、当日握手したいメンバーのレーンに並ぶ流れとなっています。




さて、本題の経験価値の向上とジブンゴト化の話。こうした苦労を乗り越え、晴れてファンは「がんばって下さい!応援してます!」と、これまで気にかけ応援してきた推しメンの手を握り、自分の言葉で直接エールを送ることができます。ファンにとってはこの上ない経験価値の向上です。

同様に選抜総選挙では、ファンは会員となるか、CD(握手券)を大量購入・投票する形でAKBを支援する代わりに「推しメンのあの子が時期シングルの選抜メンバーに選ばれる(かも)」というフィードバックを受けます。これはアーティストの未来への関与です。

AKBというアイドルの応援において、ファンは握手会で直接推しメンとコミュニケーションし、経験価値を向上させながら、その子のステップアップを見守ります。やがて、それぞれの推しメンを応援する集団の中でも、最も「熱い」コミュニティによってプッシュされるメンバーは、圧倒的な組織票を受け、更なるスターダムへと上ります。そのコミュニティのファンの間には【この子は自分達が育てた(育ててきた)】という自覚が芽生え、AKBというアイドルがきわめて高い濃度でジブンゴト化されていきます。

AKB48は、それ以前のアイドルグループには無かった、物事のをジブンゴト化を促進させる上で重要な「関与」というフィードバックを用意しています。

AKBは様々なメディア・ブランドタイアップをはじめ、競馬、パチンコ、ゲーム、アニメ〜にコンテンツを解放し、小さなジブンゴト化をあらゆる角度でつくります。そして、「会えるアイドル」としてのコンセプトを曲げず、ファンの応援にメンバーが直接対応し、経験価値の向上を生み出します。そして、その熱量の集積はメンバーの編成や編曲など、確実にアーティストの未来に作用する、音楽表現を超えて、音楽活動そのものにファンを巻き込んだ共創形態といえます。


〈事例5〉
ユーザーによるユーザーのための共創コンテンツ、
初音ミク

           
初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディア社が提供する音声合成ソフト(およびそのキャラクター名)として2007年に発売されました。数多くのアマチュアクリエイター達から、楽曲・イラスト・MVなどの投稿作品をニコニコ動画上で集め、今やとてつもなく大きな【n次創作】のムーブメントを巻き起こしています。

(※これは、販売元のクリプトン・フューチャー・メディア社が、非営利であれば、ユーザーの創作活動に歌声の利用だけでなく、キャラクターの利用も無償で許可をしている点に起因します。)

ユーザーによる創作物の中には、キャラクター利用の許諾を受けた上でCD、書籍などの形で商業展開が行われたもの、ゲームソフトやアニメ、キャラクターフィギュア、企業とのタイアップキャンペーンなども展開しています。


一つの楽曲投稿からユーザー間で世界観を広げ続け、アニメーション、マンガ、ゲームなどにも拡張した「ブラックロックシューター」の事例。


また、ファミリーマートが2012年8月31日、5周年を迎える“初音ミク”の誕生日に合わせて実施した「初音ミク 5th Anniversary ミク LOVES ファミマ♪キャンペーン」では、8月14日(火)〜9月10日(月)の39日間開催され、「はちゅねミク肉まん」など、全26種の初音ミクコラボ商品が販売され、ネット上でも大きなバズを呼びました。



    


さらにジャスティン・ビーバー、レディ・ーガガが起用されたGoogle ChromのグローバルCMにも出演。CM曲の「Tell your world」はituneで1位に、3月に発売されたCDも週間4位を記録しました。いずれもユーザーの創作や文化を取り入れる(反映する)形でコラボレーションは実現し、ユーザーからユーザーへの、ユーザーから企業への世界拡張は今なお続いています。


初音ミクという素材をユーザーに預け、ユーザーが初音ミクのコンテンツの増幅装置となる、アーティスト対ユーザーではなく、ユーザー対ユーザーの【共創活動】の最たる事例が、この初音ミクです。だからこそ、ファン同士の初音ミクというコンテンツに対するロイヤリティは、並々ならぬものがあります。例えば、昨年11月アメリカの3大ネットワークの一つ、CBSがニュースサイトで初音ミクを「Hatsune Miku The world's fakest pop star(世界で最も偽者のポップスターだ)」という記事を掲載したところ、多くのファンから批判と謝罪を求める書き込みが殺到し、記事のコメント欄が「炎上」しました。



他のどんなアーティストよりも、初音ミクというバーチャルアイドルがファンにとってはジブンゴトであり、不当な批判を受けることは我慢できないのです。このムードを醸成しているのが共創という文化であり、その文化の中でユーザーは互いに敬意を払っています。


初音ミクを育んだニコニコ動画は、とりわけその共創文化を色濃く持っています。「視聴者様は帰れ」という言葉がしばしば飛び交うニコニコ動画では、自分の立場を一切問われることなく、安心して動画の批判を書き殴る、“消費的なメンタリティ”を許しません。「じゃあお前がやってみろ」「これをやるのにどれだけ苦労すると思ってるんだ」と反発を起こします。共創コンテンツの下に集うユーザー達の一体感はとても強く、その対象を支援します。初音ミクは、まさに皆の共有資源であり、財産であり、アイドルなのです。

音楽は、最早ただの音楽というだけでは人の耳にも心にも届かなくなりつつあります。どういうプロセス(価値体験)を経てユーザーの元に届くのかが、より重要となってきます。共創は、音楽表現・音楽活動にユーザーを取り込み、ジブンゴト化を促進させる一つの方法論です。今回はその事例を前編・後編にてご紹介させて頂きました。

引き続き当ブログでは、音楽プロモーションを通じた経験価値の向上、ジブンゴト化の促進事例の紹介と考察をしていきたいと思います。(もちろん、仕事は音楽案件以外も担当させて頂いているので、様々な広告事例の紹介・考察などもできればと思っています。)最後までご覧下さい、ありがとうございました。ご意見・ご感想なども頂ければ、幸いです。



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